現在、様々な団体がAHA-PEARSプロバイダーコースを開催しており、当地域でも複数の団体がPEARSコースを開催しています。
以前もブログで書いたように、AHAはコースの受講料金を一律で決めているわけではありませんので、各団体によって受講料金にバラツキがあります。
そのため、「え?何で料金が違うの?」と思われるかもしれませんが、このような背景があります。
今回は、当会が開催するPEARSコースの特徴でもあるシミュレーションについて深く掘り下げてお伝えしたいと思います。
シミュレーションに必要なのはリアルな環境設定
シミュレーションと聞くと、高度なシミュレーター人形や医療処置をイメージしがちですが、実はもっと重要なことは、「環境設定」です。
例えば、救急救命士の方に「入院中の2歳の男の子です」と環境をお伝えしてもイメージが湧きにくいですよね。
普段は病棟勤務の看護師さんに「搬送されてきた1歳の女の子」とお伝えしてもイメージし辛いはず。
このように、シミュレーションではリアルな環境設定が非常に重要です。
PEARSではある程度の状況や環境が予め設定されているのですが、インストラクターマニュアルには以下のような記載があります。
状況を特定の場所に合わせてもよい
つまり、救命士さんであれば救急現場を。
病棟看護師さんであれば病棟でのシーンを。
救急外来の看護師さんにはERを。
このように、当会のPEARSコースでは受講される方の背景に応じて環境設定を毎回変えています。
病棟と言っても、ICUや一般病棟では入院されている方の状況は異なりますし、救急外来でも対応可能な状態はそれぞれ異なりますよね。
実は、受講される方の背景に応じて環境設定を変える作業は、ある程度のテクニックが必要になりますし、ある程度の慣れを備えていないと、受講される方を戸惑わせてしまう要因にもなり得ます。
その点、当会のインストラクターは、小児救急看護認定看護師と救急救命士が務めますので、リアルな環境(状況)を設定できますし、シミュレーション教育に関するノウハウを備えています。
医療従事者にとってのシミュレーション教育は臨場感が必須
医療従事者にとって、シミュレーション教育は必要不可欠なデバイスです。
そのため、AHAはPEARSコースでもシミュレーションを実施するように定めています。
さらにシミュレーション教育には臨場感が必要不可欠です。
同僚同士で行うシミュレーション訓練の場合は、口頭でバイタルサインを伝えることが多いと思いますが、当会のPEARSコースでは、口頭による所見の提示やバイタルサインの提示は一切行いません。
バイタルサインは全てIpadに表示されるシステムになっています。
例えば、「バイタル測ります」と言われても、Ipadの画面に数値は表示されません。
- 血圧計のマンシェットを巻く
- 測定方法を自動か聴診(触診)か選んでもらう
- その後、数値を表示
このように、普段の活動(臨床)と同じアクションをして頂くことで臨場感溢れる場面をシミュレートしていただけます。
また、バイタルサインの数値はリアルタイムで変化していきます。
例えば、他のことに気を取られてしまい、無意識にバッグマスクの換気回数が減ってしまうと、SPO2値の数値もリアルに変化しますし、換気回数が極端に増えすぎると心拍数にも変化が生じるかもしれません。
模擬的なバイタルサインと分かっていても、リアルタイムで数値やモニター音が変化していくシーンは正直焦ります。
逆に、アセスメントと介入(処置)が迅速に実施できれば、患児の状態もリアルタイムで変化していきます。
G2015から必須化されたシミュレーション
実はPEARSコースでシミュレーションが必須化されたのはG2015からです。
G2010の頃は、主催団体やインストラクターによって2つの選択肢からどちらを採用するか委ねられていました。
- スモールグループ・ディスカッション
(シミュレーション) - ラージグループ・ディスカッション
(机上ディスカッション)
机上ディスカッションとは、机に座ったままディスカッションする形式のことです。
しかし教育工学を学ぶ立場である日本医療教授システム学会ITC提携のメンバーとしては、ラージグループ・ディスカッションだけで終わらせることはできないとの考えから、G2010時代からシミュレーションに重点を置いたPEARSコースを開催してきました。
私たちの目標は「実際に動けること」であり「知識の習得だけ」ではありません。
実際、当会のPEARSコースを受講された方が口に揃えて言われるのは、
・頭では分かっていたけど動けなかった
・見るのと動くのとでは全然違う
これこそシミュレーション教育やOff The Job Trainingの効果であり、継続的な学びが必要と言われる所以です。
つまり、実際の場面で動けるためには、トレーニングを通じて模擬的なシーンを経験することこそ、医療者にとって必要なシミュレーション教育の意義であると考えています。
関連記事:BLS横浜ブログ